ドイツ国際平和村スタッフが、イラク北部とシリア北部の訪問・視察から戻りました。
(以下、フンケ・メディエングルッペ、ヤン・イェッセン氏の記事。2025年5月2日付。意訳)
顔のほぼ半分が脱脂綿で覆われ、腕には包帯が巻かれている小さな女の子が恥ずかしそうにベッドの上に座っています。片方の腕にはカニューレが刺さっています。化膿した口元の様子から、脱脂綿や包帯をとった状態がどれほど酷いかが想像できます。数日前、この女の子は、石油コンロで火傷を負い、ひどい痛みを抱えています。ドイツ国際平和村のスタッフは驚きを隠せません。ドイツや日本であれば、彼女は集中治療室に運ばれていることでしょう。シリア北東部に住む彼女の家族は、看護師の支援を得ながら、自宅で彼女を看ています。この女の子は、一刻も早い支援が必要です。決断はすぐにされました。「ドイツ国際平和村が資金援助し、明日手術を行います。」
その前日、ドイツ国際平和村代表、ビルギット・シュティフター、広報担当クラウディア・ペップミュラー、手術専門看護師であるジモネ・ツェーが、マイクロバスでイラク北部とシリア北部を隔てる小さな川に架かる橋の上を通過しました。シリアに頻繁に入国したことがある緊急医療に携わるヴィルク医師も同行してくれています。ドイツ国際平和村のスタッフ3人にとっては、初めてのシリア入国です。
ドイツ国際平和村としてシリア援助が実施可能かどうかを過去数か月、模索してきました。今回は、支援に関しての調査・視察を目的としています。ドイツ国際平和村は、中東地域での援助活動の経験があります。約3年前から、イラク北部のクルド人自治区からドイツでの治療を提供するため、子どもたちを受け入れています。ただ、シリア北東部はイラク北部とは異なる世界です。貧困問題がより深刻で、不安定です。さらには、絶え間ない軍事衝突に悩まされています。
視察訪問を計画した時点では、長期独裁者アサドはまだ政権を握っていました。「今後どうなるかは誰にもわかりません。状況を見極めて行動しなければなりません。」と、ペップミュラーがマイクロバスの中で言います。今回の行先はカミシリ市です。国境から2時間半のところにあり、シリア北東部のクルド人支配政府の行政の中心地です。ここには、クルド赤新月社の本部があり、ドイツ国際平和村はこの団体と協力して活動できないかと考えています。
スタッフは目的地までの走行中、この国の不安定な状況を垣間見ました。長い間雨が降らず、道の左右に広がる畑は干上がっていました。集落は埃っぽく、ごみにあふれていました。カミシリでも、支援が必要なことは明らかです。ここ数カ月、新たに何万人もの難民がこの地域に押し寄せています。トルコ空軍や、アンカラでクルド人対抗地上軍であるイスラム主義民兵からの攻撃から逃れてきました。
「体にまとう衣類の他には何もありません。」と、粗造りの建物の中に家族とともに身を寄せている年配の男性が苦しそうに言います。この家族は、難民として、すでに2度移動しています。「誰も助けてくれません。子どもたちは学校にいけません。冬には、ガスや油がないので、調理のために靴を燃やしました」とこの男性は付け加えます。
現地入りしたスタッフは、人々の窮状に直面し、平静を保つことが困難でした。「とても辛く、この人たちが経験しなければならないことは想像を絶します。」と、シュティフターが言います。完全に荒れ果てた公立病院の手術室で、訪問当日の午前に手術が実施されたと聞いたツェーは「考えられない。」と驚きとともに息をのんでいました。
クルド赤新月社の本部で、現地入りしたスタッフは2日間、子どもたちと面会しました。多くの子どもたちが重度のやけどを負っていました。3年前にガスコンロの爆発によって火傷をおったナダは、膝裏に癒着ができてしまい、正常に脚を動かすことができません。下腿の包帯替えをする際には、悲痛な声がもれます。傷はまだ治癒しておらず炎症も重度です。「手術のための費用を支払うことができません。」と彼女の祖父が言います。この家族は、農業を営んでいますが、今年は収穫がありません。この家族が住む村では、電気や水の供給がなく、生き延びるためには、タンカーで運ばれてくる水を買わなければなりません。
子どもたちの治療費を得るために家と車を売ったという他の家族にも会いました。平均月給が70ユーロの地域で、手術費用は1000ユーロかかります。人々は支援が必要です。今回は調査・視察を目的としていましたが、直ちに現地での具体的な支援に取り組まなければならないことは明らかでした。「行動を起こさなければならない。」とシュティフターが言います。
早速、現地の外科医師と相談し、私立の病院で子どもたちへの手術を実施することに決めました。費用をドイツ国際平和村が負担します。ドイツ国際平和村は、治療を必要としている子どもたちへドイツでの医療治療を提供する活動を1つの活動の柱として行っています。シリアの子どもたちの受け入れに関しては、、シリア北部の政情は安定しておらず、子どもを出国させることに危険が伴う上、子どもを家族の元に帰せるかも不確かな状況です。そこで、今回、シリア現地での手術を通した支援を実施することにしました。
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