新しい足で立ち上がったサファ

 Foto: André Hirtz / FUNKE Foto Services
2024年10月発行 ドイツ国際平和村レポート 特集記事
「義肢装具士と整形靴職人の技術による子どもたちへの治療ケア」

ドイツ国際平和村のスタッフが、カブールで初めてサファに会ったとき、彼女は父親に抱きかかえられていました。(タイトル写真) やけどにより、両足を失い、下肢と手の皮膚はやけどの爪痕を物語っています。当時8才のこの女の子のまなざしには、悲しみと希望が入り混ざっていました。彼女の両親も最後の希望を持って、カブールでの面会にやってきました。診察の際、やけどで親指が手のひらにくっついた状態の左手を差し出しました。

サファは治療のチャンスを得られた一人です。面会と診察が終わり、ドイツ国際平和村のスタッフは言いました。「治療のためドイツに行きましょう。必要な手術と義肢装具支援ができます。」

数週間後、長い飛行時間を経て、サファはアフガニスタンの様々な州から集まった53人の子どもたちとドイツ・デュッセルドルフ空港に到着しました。2022年11月、天候は曇り、しかし空港は希望にあふれていました。やけど、骨髄炎、痛み、疲れ、多様な感情が子どもたちの頭の中を駆け巡っていました。他言語を話し、異なる格好や生活環境。そのような場所での生活はどうのようになるのだろう?と、想像するしかありません。容易な旅ではありませんが、彼らにとっては健康を取り戻す唯一のチャンスなのです。子どもたちはそれを知っています。そのことは、彼らに力を与えます。

子どもたちにまったく罪はありません。ただ、彼らには、「紛争、貧困、飢餓、医療供給の不足」といった共通項があります。ドイツ・オーバーハウゼン市にあるドイツ国際平和村の施設では、健康な未来のためにそれぞれが、そして互いを想いながら日々を過ごしています。

サファの治療が始まります。入院、第1回目の手術、2回目手術、他の科への移動、3回目の手術、退院、平和村施設でのアフターケア。ドイツに到着して約半年後、両下肢用の義肢が調整されました。左手には、圧迫用手袋を使用しています。左手の手のひらにくっついていた親指を手術で切り離したので、その親指の柔軟性を保つため、また切り離した部分の皮膚を傷つけず伸縮性を保つために使用しています。

義肢によって、歩行が再度可能になります。サファ、そして周りにいる全ての人々にとって、とても大きな喜びです。残念ながら、義肢が接触する場所に度々圧迫痕ができてしまいます。傷跡のある皮膚が薄すぎて敏感だからです。再手術は避けられません。皮膚組織を切除し、他の部位から切除した皮膚を貼り付けます。治癒には時間がかかります。ようやく、新しい義肢と向き合うときがやってきました。2024年1月、サファは初めて歩行練習をしました。5月と7月、彼女の成長に伴い、再度義肢の調整を行いました。

「サファが義足での再歩行を獲得していくその進歩の早さに驚かされます。成人だったら、もっと時間がかかることでしょう。」と、ドイツ・エッセン市の医療用品店に勤務する義肢装具士、ヴェーナー氏が言います。彼は、サファの義肢のはまり具合を確認するため、平和村施設内のリハビリ室に来ていました。はじめは松葉杖をついていましたが、もうその必要はありません。サファはリハビリ室で、歩行に必要なバランス能力向上のため、カラフルなスポンジブロックが障害物として置かれたコースを進み、ストレッチや筋力アップのトレーニングをするために台の上で体を動かしています。そして、慎重にではありますが、なんとミニトランポリンの上でジャンプまでしているのです。サファの表情も明るいです。彼女はここまでできるようになったことが、どれほど貴重なことなのかを知っています。

義足に慣れるために、リハビリ室のトランポリンで自主練習中!(Youtube映像)

「誰ができる?それはあなたしかいない!」

ドイツ国際平和村のリハビリを10年近く担当している中奥みのりは、サファ、それにリハビリにやってくる子どもたち全員にやる気を保てるよう声掛けをしています。例えば、アンゴラから来ているヘレナ。ヘレナは、左腕に装具(動的スプリント。下部参照)を付けています。彼女は、近い将来に手術を受ける予定です。皮膚の拘縮による変形が気になるようです。この装具によって、その部位に注意を寄せ、トレーニングを促すことができます。「拘縮部分と腱を常時伸展させることによって、手術の成功具合も上がります。」と、ヴェーナー氏は言います。

彼は、この日、ヘレナの装具とカルロスの手用シーネのチェックのためにリハビリ室を訪れていました。2010年より、ヴェーナー氏は彼自身の勤務時間前、または勤務後、多い時は週に2、3回、平和村施設に来ています。調整が必要な装具は、ドイツ・エッセン市の雇用主の工房に持ち帰り、調整を行います。このエッセン市にある医療用品店は、子どもたちに必要な装具を製作するだけでなく、ドイツでは販売できなくなった装具を寄付しています。それらは、現地プロジェクト活動のために活用されます。「小さな傷や不具合があるというだけで、すぐに装具全体を破棄する必要はありません。」と、義肢装具士は言います。「装具を洗浄し、整え、ドイツ国際平和村に有効活用してもらうために寄付をしています。」

ドイツ国際平和村の子どもたちのために製作される装具は、修理が簡単にできるように工夫されています。例えば、装具自体の内部にネジを埋め込むのではなく、外部に取り付けるようにします。「機能は、ドイツにある装具と同様ですが、処理が容易であるようにしています。」と、ヴェーナー氏が方針を語ります。

足へのサポート-それは身体全体へのサポート

同様に、整形靴職人であるフランツルドルフ・シュテフェン氏も言います。彼は、2019年から登録ボランティアとしてドイツ国際平和村に協力しています。今までに何百人もの子どもたちの足の治癒に貢献してきました。「子どもたちに、例えば、整形用インソールローリングソール(下部参照)を装着した補高靴、整形靴(下部参照)などを製作しました。」と語ります。「大まかに言うと、整形靴職人は足と靴を専門としていて、それ以上の分野は、義肢装具士の範囲になります。」

装具は足に装着されますが、身体全体に影響が出てきます。特に、成長期にある子どもたちに関しては、腰部や背中に問題が起きないよう、ずれがある場所の均衡を取ることは重要です。

登録ボランティアとしてドイツ国際平和村の活動に参加する前、シュテフェン氏は29年間、オーバーハウゼン市にある整形靴専門店を経営し、そこで自身も職人として働いていました。ドイツ国際平和村との出会いは、1980年代末、オーバーハウゼン市にあるマリエン病院の主任医師が声をかけてきたことから始まりました。子どもの治癒に必要となる整形外科用品の無償提供という支援ができないかと問い合わせがあったのです。それ以来、ドイツ国際平和村を支援し続けています。「子どもたちの施設を歩いていると、子どもたちが寄ってきて言います。『ルーディ、みてみて!靴底が外れるんだ!』 子どもたちが私が何をしているかを理解してくれていること、そして私が彼らの助けになれることを知っていること、そのことを嬉しく思います。」

  • シュテフェン氏は、彼の店を数年前に後継者に引き継ぎました。同様に整形靴の分野で長年ドイツ国際平和村を支援してくれているオーバーハウゼン市の他の整形靴専門店の工房を使わせてもらい、シュテフェン氏は引き続き支援してくれています。この整形靴専門店は、工房の使用に加え、必要な機械、必要資材を提供してくれています。義肢装具や整形靴の需要は大きく、それらを調整するための工房をドイツ国際平和村施設内に設けることを計画しています。往来のための移動を省き、修理を直接迅速にできるようにすることが目的です。

他の相違点

ドイツ国際平和村の子どもたちのために製作される装具と、ドイツや日本の患者のため製作される装具に基本的には大きな違いはありません。しかし、病状は異なります。脚長の違いが骨髄炎に起因することは、ドイツではほぼありません。「22㎝の補高靴を製作したことがありますが、一般的には、これほどまでの脚長差がある場合は、オートプロテーゼ(下部参照)を使用します。」と、シュテフェン氏は言います。

ただ、ドイツ国際平和村ではこの装具を使った解決策を採用することは少ないです。それは、補高靴の機能性は抜群で、子どもたちの母国でも対応と調整がしやすからです。「もちろん必要性がある際には義肢の装着を選択する場合もありますが、できるだけその義肢が子どもたちの母国でも調整可能で修理が可能であるようシンプルなものにしています。」と、ドイツ国際平和村スタッフ、クラウディア・ペップミュラーが言います。

ペップミュラーは、ドイツでの治療を必要としている子どもたちとの面会のため、現地入りするスタッフです。アフガニスタンの義肢装具の可能性なども、現地入りした際に確認しています。基本的に、子どもたちの帰国前には、帰国後も適切に使用されるように子どもたちの装具の最終確認と調整を行います。

クラウディア・ペップミュラーへのインタビュー

アフガニスタンでは、義肢の調整は可能ですか?

首都カブールには、国際赤十字所属のカイロ氏が1990年より実施している素晴らしいプロジェクト、「アリ・アバッド整形外科センター」があります。援助飛行の準備で現地入りする際に、このプロジェクトを見学しますが、毎回感嘆します。

この整形外科センターの特徴は?

2点、あります。まずは、カイロ氏がこのセンターの構築に全力を注いできたこと、そして70歳を超えた彼が今もなお全力で取り組んでいることです。2点目は、このセンターのほぼ全員が、何かしらの身体の制限を持っていることです。このことは、カイロ氏が重要視していることです。なぜなら、義肢や矯正装具、歩行補助具、車いすなどの補助具を必要とする人々の状況に対し、共感が持てるからです。加えて、義肢装具を必要とする人々にとって、スタッフが義肢装具を使いこなし、センターでの業務をこなしていることが、モチベーションとなっています。このセンターで、ドイツ国際平和村が受け入れた「かつての子ども」と再会しました。彼はこのセンターで職を得て、数年前から業務に専念しています。

このセンターでは、義肢装具自体も製作しているのですか?

はい、しています。さらに、既にある義肢装具を修理したり、調整したりもしています。ドイツ国際平和村には、「ドイツでの治療の一環で義肢や装具を必要とした子どもたちが帰国したあと、母国で義肢や装具に問題が発生した時にどうするのですか?」という質問が寄せられます。医療用品店がいたるところにあるドイツとは異なって、確かに子どもたちや家族にとっては大変ですが、カブールまで来れたら、このセンターで調整が可能です。私たちにとっても心強いことです。

 

義肢装具、整形靴について

ローリングソール:歩行時の足の通常動作に滞りや妨げがある際に必要です。例えば、関節症や関節の可動制限があるときや、足の切断がなされたときに必要です。

インソール:内反足の手術後のアフターケアに使用されたり、四肢の変形の際に平衡を保つためや、やけどによる傷へのクッションのような役割を担うために使用されます。

圧迫・固定用のサポートやコルセット:瘢痕は、多くの場合、過剰な組織形成を伴い、傷跡が大きくなっていきます。サイズに合わせたコルセットなどで、恒常的な圧迫と固定をし、傷の安定化を図ります。

オーダーメイドの整形靴:例えば、外傷による強度の変形がある子どもたちや、麻痺ややけどの症状を抱えた子どもたちが必要とします。

オーテーゼ:身体の部位を包み、その部位の負担を軽くし、安定させる装具。

オートプロテーゼ:オーテーゼと義肢を組み合わせた装具。オーテーゼの要素は、機能のサポートをし、義肢の要素はその機能を代替します。四肢の変形がある場合に使用されます。例えば、脚長差がある場合、オーテーゼ部分によって安定が保たれ、義足部分は歩行機能を代わって行います。

プロテーゼ(義肢):身体部位の代わりを担います。

関節部位のシーネ(動的スプリント):強度を調整でき、常に引っ張りを施す装具。短縮した筋肉や、瘢痕化した部分の神経や血管のさらなる癒着を防ぎます。引っ張りにより常に可動性が増し、血液循環が増長され、組織の構築が促されます。

補高靴:ドイツ国際平和村が受け入れる子どもたちには、上肢、下肢、腰部に傷を抱えている子どもたちが多くいます。母国では適切に対処されていませんでした。多くの子どもたちが抱える骨髄炎は、ドイツの協力病院のよる治療が始まって初めて、抗生物質が投与され、手術による治療が行われます。負傷時、場合によっては成長板の損傷により、傷を負った足の成長は止まり、脚長差が生じます。この脚長差は、上半身の安定と成長にも影響します。そのため、子どもたちは補高靴を使用し、均衡を取ります。

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